シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.47「THREE BILLBOADS」

今回は「THREE BILLBOADS」です。
本番期間中の休演日に、あまりに今回の「ヒッキー・ソトニデテミターノ」が精神的にストレスフルなため、観にいって参りました。観終えて案の条、さらなるストレスフルになり、元気に劇場に向かうことになった訳です。

娘をレイプされ殺された母親が三つ(THREE)の看板(BILLBOADS)を立てたことから始まる怒りの連鎖と、人間のどうしようもなさと、ほんの少しの救いらしきものが描かれた映画です。どこもかしこもポジティブな評判が多く、実際にとてもよくできた、考えられた作品とお見受けします。なので、ここは一つ、とにかく揚げ足取りでも何でもいいから文句を言ってみようと思います。文句を言うことで、脚本や演技に「別の選択肢があった」という可能性が出て来て、表現されたものだけが全てではないと言うことが分かるし、しいては「こんなことを言う岩井が作ってたら、ひどい映画になっていたのだな」ということも学んでいただけるかと思います。

まず、母親がもうちょっと大味な性格でもいい気がした。歯医者さんの手にドリルで穴を空けたり、警察署に火炎瓶を投げ込んだりという豪快な行動を取るので、幻のように現れた鹿に涙するという超繊細なシーンが蛇足というか、それだったら鹿に涙するんだけど、糞された瞬間に撃ち殺したりしてもいいかなと思ったのでした。元旦那が連れて来た若い彼女にも、夫の性癖ぶちまけるとか。折角、「全く品行方正じゃないけれど、社会や世界に訴えかける荒々しくも正直な感情表現の方法」というものを描こうとしているのだから、今まさに「訴える内容」よりも「訴え方」の方に世論が動きがちな世界に投げる石としては、もっとゴッツンゴッツンしててもいいかなと思ったのだった。亡くなった警察署長からの手紙を受けた元警官が手紙一発で「ザ・改心」する流れも、なかなかに納得しがたい流れだった。これはズバリ、署長と元警官が恋仲だったらだいぶ鋭く進められたかと思います。

署長と元警官は署内の誰にも知られずに激しく愛し合っていて、それは当然、家族にも知られていない。署長は妻と別れたいと思っているが、末期癌のこともあり「死ぬまでは、妻と別れることができない」と元警官に言う。元警官はそのこともあって荒れている(この時点ではまだ現役警官)。主人公である母親が署長の名前を看板に書いて告発する事件が勃発し、元警官のフラストレーションは全て母親に向けられる。署長は元警官との恋仲も公にしたくないし、事件の捜査も始めたい。そうこうしているうちに、署長の自死。署長によってクビにされた元警官は署長が残した手紙を読む。そこには愛の言葉と、その愛を、世界のために使って欲しいという願いが書かれている。元警官の行動に変化が現れる。ところで、映画でも演劇でも、終わり方って結構大事で、2時間を通して描いて来たことが、終わり方の印象だけに集約されてしまうことを避けつつ、でも、ちゃんと終わり方で観客に余韻、その後の登場人物を自分と照らし合わせながら観られる、という形が理想だと思っていまして、いろんな物語を見て「まだ続けちゃうんかい!」とか「その後的なエピローグ、いらんわい!」と僕はよく思うのですが、この映画の終わり方は、本当に素晴らしかった。映画館で「ここで終われ!終わってくれたらずっと考えられる!」って呟いたところで終わったので、嬉しかった。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

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◎シアタービューフクオカ vol.71掲載(2018.2発行)