シアタービューフクオカで絶賛連載中のハイバイ・岩井秀人氏のコラム「岩井の好きな映画」。本誌と併せてお楽しみください!

ハイバイ・岩井秀人コラム【岩井の好きな映画】vol.46「ブレードランナー」

「ブレードランナー」を、改めて見返してみた。
最後に見たのはどれくらい前だっただろう。10代だったと思う。ずっと雨が降っている秋葉原の電気街の様な世界感と、終盤にレプリカントがぐるんぐるん回転しながら雄叫びを上げショッピングウィンドウを粉々にし、やたらムーディな音楽がかかる、というくらいしか覚えていなかった。レプリカントの存在自体は理解していたが、そのレプリカント自身が、どういった葛藤を持って存在していたかは分かっていなかった。ハリソンフォードに嫌がらせをする「悪者」くらいにしか思っていなかった自分に、結構ゲンナリした。ゲンナリしながら見ていくうちに「ここまでシンプルなストーリーだったのか…」と驚いた。とても2時間も引き延ばせる様なプロットではない。書いてみたら4行くらいで終わるプロットだ。だけど、全く退屈しないのは、この陰鬱な物語が起きている世界の描き方が、とても絵空事じゃないように思える上に、生活感もしっかりあった上で美しいからなのだと思う。車はバンバン空を飛んでるんだけど、どこか懐かしい、ネオンの看板の文字や、どこかから聞こえてくる浪曲的な音楽。アジアの古典音楽がかなり使われている。巨大な液晶画面で舞妓さんが微笑んでいる。車のパーキングメーター一つとっても、独創的だし、どこか懐かしいデザインだ。それぞれちゃんと生活に汚されていて、生々しい。
欧米人の監督が持つアジアのイメージって、どういうものなのだろう。「未来」とまでは思っていないのだろうけど日本に生まれた僕がなんとも思わずに過ごしているものに、勝手に神秘的なものを感じているのかもしれない。アンドレイ・タルコフスキーの「惑星ソラリス」では、クルーのたどり着いた惑星「ソラリス」という星自体が意識を持っている、という設定だが、その惑星の意識回路のイメージ映像として、なんと東京の首都高速の映像が映し出される。日本人は混乱すること間違いなしの映像となっている。地球から遥か彼方にある惑星と人類の物語を見ていたら、「箱崎出口まで800m」とか「浜町出口ま左」とかってインターチェンジの標識がバンバン出て来ちゃう。
まあでも、気持ちは分かる。僕も東京に住んでいながら、暇があると首都高を走る。セリフを覚えるのに、自分で録音した「自分以外の登場人物のセリフ」を流しながら、そこに自分の役のセリフを合わせていくのだ。それをやりながら、首都高を何度も何度も周回する。30分くらいごとに、東京タワーやうんこビル、大西ライオンと並んだ、ちょっと怪しい女性の広告。やたらと、都内の景色を見るには都合が良すぎる作られ方をしている首都高速。だから「ソラリス」でもあんな使われ方をしたのかしらね。

いわい ひでと/1974年生まれ。劇作家・演出家・俳優、ハイバイのリーダー。「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

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◎シアタービューフクオカ vol.70掲載(2017.12発行)